「ハリーポッターが大好きで、映画を字幕なしで観ています!」
そんなふうに話してくれる中学生の生徒が、今までも何人かいました。
セリフをすらすらと言えるほど作品が好きで、繰り返し何度も観ている。
その熱量には素直に感心します。
私自身も、好きなものに夢中になれる生徒を見るのは嬉しいものです。
でもあるとき、その子たちに中学英語レベルのディクテーションをしてもらうと、ミスが非常に多いことに気づきます。
聞き取れないだけでなく、書き取った内容を見ると、英語の意味そのものが理解できていないことが多いのです。
「知ってる」と「わかっている」は違う
映画を何度も観てストーリーを覚えている。
セリフも言える。
でも、それは「意味がわかっている」のではなく、音の記憶に過ぎない場合があるのです。
たとえば、”You have to be careful, Harry.” というセリフを言えたとしても、
それがなぜ “have to” なのか、
どうして “careful” という単語が使われるのかを理解していなければ、
それはただの音まねにすぎません。
つまり、「好きで知っていること」と「言語として理解できていること」は、まったく別なのです。
ハリーポッターは中学生には難しすぎる
これはハリーポッターに限った話ではありませんが、映画やドラマの英語は想像以上に高度です。
・語彙は豊富で専門的
・スピードはナチュラル、あるいはネイティブ同士の砕けた会話
・文法的に難しい表現や省略が多い
・文化的背景が前提になっている
こうした特徴があるため、英語力がつく前の段階で「理解できていない英語」を浴び続けても、実はそれほど力にはならないのです。
英語力を伸ばすには「わかる英語」を積み重ねること
英語を本当に自分のものにするには、「わかる」「意味が取れる」「反応できる」レベルの英語にたくさん触れることが必要です。
私たちは日本語を身につけたときも、まずは身近で簡単な言葉からスタートしましたよね。
「ワンワン」「バナナ」「ごはん」「ねんね」など、意味がすぐにわかる単語や表現を繰り返し聞き、それが実際の行動や感覚と結びつく中で、ことばの世界を広げていきました。
英語も同じです。
「ちょっとわかる」→「もう少しわかる」→「だいたいわかる」
この繰り返しが、実感を伴った英語力を育ててくれます。
好きな作品は「ゴール」にしてもいい
ハリーポッターを原語で理解できるようになりたい。
字幕なしで洋画を観たい。
そう思う気持ちは、英語学習の大きなモチベーションになります。
否定する必要は全くありません。
でも、それを「いまの自分にできること」と混同してしまうと、かえって英語が遠くなってしまうかもしれません。
好きな作品は、「到達したい目標」として大切にしながら、今は「確実にわかる英語」をたくさん聞いて、たくさん読んで、たくさん使うこと。
それが、遠回りに見えて、実はいちばんの近道です。
おわりに
特に中高生は、英語学習は「好き」の気持ちだけでは伸びづらく、
今の自分が「理解できる英語」を積み重ねていくことが大切です。
英語がわかるようになっていく過程で、
好きな作品も、ただの「音」から「ことば」に変わっていきます。
その小さな成功体験の積み重ねが、
やがて「字幕なしで楽しめる日」が訪れるはずです。
