「視覚的チャンク認識」というアプローチ
毎月10万語の多読をしても、音読を何百回しても、
「say to your mom hello」と言ってしまう子がいます。
文法はわかっているのに、感覚で語順をつかめない。
それは才能の問題ではなく、脳の情報処理のタイプの違いです。
そのような子にこそ必要なのが、
視覚的チャンク認識(Visual Chunk Recognition) という考え方です。
視覚的チャンク認識とは
視覚的チャンク認識とは、英語を単語の並びではなく、
「意味のかたまり(チャンク)」として視覚的にとらえる力のことです。
たとえば:
say hello to your mom
自然に英語を読む人の頭の中では、
[say hello] [to your mom]
というふうに2つのチャンクで処理されています。
でも、語順が苦手な子には、
say / to / your / mom / hello
のように、単語がバラバラに見えています。
視覚的チャンク認識とは、この「どこで区切るか」を目で見て理解できるようにする力です。
なぜ苦手な子がいるのか
- 文法中心・分析型の学習に慣れている
- 音韻ワーキングメモリが弱く、語順を保持できない
- 意味理解に注意が向きすぎて、形を意識できない
- 聴覚中心で、視覚や身体感覚での補強が足りない
これらのタイプの子どもたちは、耳からでは語順の流れを感じにくいため、
音や多読だけでは「英語の流れ」をつかめません。
育てる方法
チャンクごとに色分け
例:
[say hello](緑) [to your mom](青)
色で区切りを見せることで、どこがセットなのかが視覚的にわかります。
カード並べ替え
フレーズをカード化し、自然な並びに並べ替える活動。
→ 語順の「流れ」を手で動かしながら体感できます。
スペース・配置で見せる
say hello to your mom
このように空間的な間をつくることで、チャンクの単位を視覚的に理解できます。
矢印・ジェスチャーを加える
say hello ➜ to your mom
英語が「左から右へ流れていく」ことを、目と動きで感じさせます。
なぜ大切か
一部の学習者は、音読や多読だけでは「感覚的な語順」が育ちません。
しかし、見える形で構造を提示すると、脳がようやく「英語の流れ」を掴み始めます。
一度チャンク感覚が生まれると、
語順・リズム・文法が一気につながります。
これは、英語の「構造美」を身体で感じる瞬間です。
「段々文が長くなる本」がチャンク認識を助ける理由
この本のように文を少しずつ伸ばしていく構成の本は、
まさに「視覚的チャンク認識」を自然に養う教材です。
チャンクの「増え方」が目に見える
英語は情報を左から右へ足していく言語です。
a cake
Lily buys a cake.
Lily buys a small cake.
Lily buys a small cake in the shop.
修飾語や前置詞句が右側に「足されていく」様子を目で追うことで、
語順感覚の定着にとても役立ちます。
日本語では「店で小さいケーキを買う」と修飾が前に来るため、
「後ろに足していく」という感覚を視覚的に示すことが重要です。
構文の型が並んで見える
同じ文が少しずつ変化することで、
「buy」「a」「small」「in the shop」などの位置と役割がはっきり見えます。
子どもたちは無意識に、英語の「型」を比較・抽出しています。
これが「文構造のパターン認識力」です。
意味が変わらないので形に集中できる
内容はほとんど同じなので、意味処理の負荷が下がり、
語順や構造に注意を向ける余裕が生まれます。
結果として、語順そのものを感覚として吸収できるようになります。
結論
視覚的チャンク認識とは、ルールを教える方法ではなく、
英語の「流れ」を見せる方法です。
「見えるようにしてあげる」ことで、
初めて「感じられる」ようになる子がいます。
文法の勉強もしたし、多読も音読もしているのに語順がスッと入らない人は
ぜひこの視点を取り入れてみて、語順に“感じる力”を育ててみてください。
