プリンツ賞(Michael L. Printz Award)
(ヤングアダルト文学の最高峰を讃える賞)
歴史
プリンツ賞(Michael L. Printz Award)は、2000年に創設された比較的新しい文学賞です。
授与するのはアメリカ図書館協会(ALA)の青少年図書館サービス部門(YALSA: Young Adult Library Services Association)。
この賞の名前は、カンザス州トピカの高校図書館司書であり、ヤングアダルト文学の普及に尽力した マイケル・L・プリンツ(Michael L. Printz) にちなんでいます。
彼は生前、生徒に質の高い本を届けることに情熱を注ぎ、その精神が賞の理念に引き継がれています。
目的と意義
ヤングアダルト文学の地位向上
児童文学のニューベリー賞や、絵本のコールデコット賞に比べ、ティーン世代(12〜18歳)を対象とした文学は長らく「評価の空白地帯」でした。プリンツ賞はその空白を埋め、YA文学を正当に評価する場を提供しました。
ジャンルを超えた評価
受賞対象は現代小説、歴史小説、ファンタジー、SF、グラフィックノベルなど幅広いジャンル。文学的完成度があれば形式は問われません。
YA文学の多様性を推進
受賞作には人種、文化、ジェンダー、社会問題といったテーマを扱うものが多く、現代のティーンが直面する課題を映し出しています。
選考方法(仕組み)
主催:YALSA(アメリカ図書館協会青少年サービス部門)
審査員:YA専門の図書館員、教育者などで構成される委員会
対象作品:前年にアメリカで出版された、12〜18歳向けの本
評価基準
- 文学的な質を最重要視(テーマ、プロット、キャラクター、文体など)
- ティーン読者に強いインパクトを与えるか
- ジャンルや形式は不問(小説、詩、ノンフィクション、グラフィックノベルなども可)
受賞数:
毎年1冊が「Winner(大賞)」
複数の「Honor Books(次点・名誉賞)」
社会的影響
YA文学の権威:プリンツ賞の創設によって、ティーン世代向けの本も「大人の文学と同じように」真剣に評価されるようになりました。
読書文化の拡大:多様な背景をもつ若者たちに向けた作品が選ばれることで、読者層が広がりました。
国際的影響:受賞作の多くが翻訳され、日本でも「YA文学」として紹介されています。
映画化・映像化:プリンツ賞受賞作やオナーブックはしばしば映画やドラマ化され、YA文学の人気を後押ししています。

論争と批評
「ティーン向けにしては内容が暗すぎる/過激すぎる」との批判(例:暴力や薬物、セクシュアリティを扱う作品)。
一方で、「ティーンにリアルな問題を提示することこそ文学の役割」という擁護の声も大きい。
多様性の面では、アフリカ系、アジア系、ラテン系作家の受賞が増えつつあり、賞の方向性が「社会的インクルージョン」にシフトしている。
代表的な受賞作
初期(2000年代前半)
- 『Monster』 by Walter Dean Myers – 2000年 Honor Book
- 『Speak』 by Laurie Halse Anderson – 2000年 Honor Book
- 『Looking for Alaska』 by John Green – 2006年 Winner
- 『American Born Chinese』 by Gene Luen Yang – 2007年 Honor Book(グラフィックノベルとして初)
2000〜2010年代
- 『Jellicoe Road』 by Melina Marchetta – 2009年 Winner
- 『Going Bovine』 by Libba Bray – 2010年 Winner
- 『Ship Breaker』 by Paolo Bacigalupi – 2011年 Winner
- 『In Darkness』 by Nick Lake – 2013年 Winner
- 『March: Book Three』 by John Lewis, Andrew Aydin, Nate Powell – 2017年 Winner(公民権運動を描いたグラフィックノベル)
近年(2020年代)
- 『Dig』 by A.S. King – 2020年 Honor Book
- 『Everything Sad Is Untrue』 by Daniel Nayeri – 2021年 Winner(移民体験を描いた回想的YA小説)
- 『Firekeeper’s Daughter』 by Angeline Boulley – 2022年 Honor Book(ネイティブアメリカンの少女を主人公とするサスペンス)
まとめ
プリンツ賞は、ニューベリー賞やコールデコット賞と並ぶアメリカの三大児童書賞の一つですが、その役割は異なります。
ニューベリーが「子ども向け文学の質」を保証し、コールデコットが「絵本の芸術性」を評価するのに対し、プリンツ賞は 「ティーン世代の声を代弁する文学」 を讃えます。
創設から20年余りで、YA文学を世界的に評価の対象とするまでに押し上げた功績は大きく、今後も多様な作品がこの賞を通じて広まっていくでしょう。